それから

たちまち赤い郵便筒が目についた。するとその赤い色がたちまち代助の頭の中に飛び込んで、くるくると回転しはじめた。笠屋の看板に、赤い蝙蝠傘を四つ重ねて高くつるしてあった。傘の色が、また代助の頭に飛び込んで、くるくると渦をまいた。四つ角に、大きな真っ赤な風船玉を売ってるものがあった。電車が急に角を曲がるとき、風船玉は追っかけて来て、代助の頭に飛びついた。小包郵便を載せた赤い車がはっと電車とすれちがうとき、また代助の頭の中に吸い込まれた。煙草屋の暖簾が赤かった。売り出しの旗も赤かった。電柱が赤かった。赤ペンキの看板がそれへと続いた。しまいには世の中が真っ赤になった。そうして、代助の頭を中心としてくるりくるりと炎の息を吹いて回転した。代助は自分の頭が焼けつきるまで電車に乗って行こうと決心した。