パヴェーゼ

神々
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山は荒れている、友よ。色あせた去年の冬の草々の上にところどころまだ雪が残っている。ケンタウルスのローブのようだ。高地はどこもこんな感じだ。ほんの少しの小さな変化だけ、そして田園地帯はそれらの変化が起ると、起きたままになる。
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彼らはその変化を本当に見たのだろうか
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それはわからない。しかし確かに彼らは見たはずだ。彼らはそれらの名前を教えてくれた、それだけだ。物語と真実の間にははっきりとした違いがある。「それはこの男だ、いやあの男だ。」「彼はこうした、ああ言った。」真実を述べる人間はそのことに満足する。その人間は、聞き手が彼の事を信じていないかもしれないと疑う事すらしない。我々は嘘つきだ。見た事もないのに、我々はケンタウルスがどんなローブを身に付けていたか知っているし、イカリオスの脱穀場の葡萄の色も知っている。
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重要なのは丘、頂き、浜だ。おまえの目が見開き、空を見つめてとまるような、寂漠とした場所ならどこでもだ。空中に輪郭を型どられた素晴らしいレリーフも、心を捉える。私にとっては、空の中に輪郭を描く木、岩は、そもそも最初から神なのだ。
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ここではこれらのものが存在すらしなかった時代もあった。
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まったくその通りだ。それ以前は、地の声、根、泉、蛇しかいなかった。もし悪魔が地球と地とをくっつけたら、地中の暗闇から、明るみへと浮上してくるに違いない。
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私にはわからない。その人々はあまりに多くのものを知っている。簡素な名前で彼らは雲、森、運命の物語を語るのだ。我々が単に知っているだけの事を、彼らは確かに見たのだ。彼らは夢の中で迷う時間も、そういった趣味も持ってはいない。彼らは恐ろしい、信じられないような事を見て、驚きもしなかった。それらがなんだったのか知っていたのだ。もし彼らのいったことが間違いだったとしても、一体誰がそれを咎める事が出来るだろう。あの時代では、おまえでさえ「朝だ」とか「雨が降りそうだ」などとは、気が狂わないかぎり言えなかったはずだ。
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そうだ、彼らは名前を言う。あまりに頻繁に言うので、時々事物が先にあるのか、名前が先なのかわからなくなるくらいだ。