消去

のべつ写真を撮りまくり、絶えずカメラを首にかけて走り回っている人間を私は軽蔑する。そういった連中は四六時中モチーフを探していて、何でもかでも、このうえなく馬鹿げたものでさえも手当たり次第、写真に撮る。彼等の頭にあるのは、身の毛もよだつような仕方での自己演出だけだが、もちろん自分ではそのことに気づいていない。そうやって彼らの写真には倒錯的に歪曲された世界が定着される。それは倒錯的に歪曲されているという点でしか現実の世界と通いあうところのない世界である。彼らは自ら世界の歪曲に手を下したのだ。トマス・ベルンハルト『消去』